抄録
10歳,雄のゴールデン・レトリーバーが体重減少,食欲・元気の低下ならびに発咳を主訴に来院した。胸部X線検査および心臓超音波検査により,心底部に径約 5 cm の腫瘤が確認された。腹部超音波検査では,肝臓および腎臓に多発性の腫瘤病変が描出され,心底部腫瘍の全身性転移の可能性が示唆された。維持療法を行ったが臨床症状の改善はみられず,第33病日に死亡した。剖検では,灰白色で被膜を有する心底部腫瘤が大動脈基部に接着し,左心房壁の一部に浸潤していた。組織学的に,本腫瘤は心底部大動脈小体腫瘍と診断された。本腫瘍の転移病巣は心臓,肺,前縦隔リンパ節,肺門リンパ節,肝臓,脾臓,膵臓,腎臓,副腎,膀胱,腸間膜リンパ節に認められた。今回のように全身性に転移がみられた悪性度の高い心底部大動脈小体腫瘍の発生例は少ない。