抄録
高齢犬20例(10-18歳)を対象として,大動脈各部の病理学的検索を行なった。肉眼的に17例の大動脈の内膜面に粗造感が認められ,そのうち6例は内膜面に丘陵状の白斑形成を伴っていた。顕微鏡的には内膜,内弾性板および中膜に病理組織学的変化が観察された。内膜には著明な肥厚がみられ,その内膜肥厚を構成する主要な成分によって(i)平滑筋細胞主体,(ii)膠原線維主体,(iii)平滑筋細胞および膠原線維の両者による二層構造を示す内膜肥厚の3つに大別された。内弾性板には部分的消失,断裂,細片化,重複化,石灰沈着などの変化がみられ,内膜病変に随伴していた。中膜においては水腫性変化,膠原線維増生,線維化が,一連の過程として観察された。特に中膜の線維化は,内膜肥厚が顕著な例に多く見出された。内膜,内弾性板及び中膜の各病変は,加齢に伴い,また,近位部から遠位部に向かうに従って重篤さを増す傾向を示した。今回観察された大動脈の形態学的変化は,ヒトの老齢性動脈硬化症にみられる病変と一致していた。