抄録
1.咳と腹部膨満を主訴とする10才の雑種犬,雄において,臨床的に心タンポナーデを招来した症例を経験した。治療は内科的療法にとどまり経過観察を行っていたが,第22病日に死亡した。
2.一般臨床検査に加え心エコー図検査を施行した結果,4腔断面図において心臓と心膜との間にエコーフリースペースと心臓の圧迫縮小がみられ,収縮早期に右房壁の内方運動が認められた。また大動脈基部短軸レベルにおいても同様のエコーフリースペースがみられ,右室壁の拡張早期の内方運動も認められたことから,心タンポナーデに特徴的な所見と解釈し,診断した。
3.本例は治療に制限がつき外科的治療を行えないまま死亡したが,心タンポナーデに対し可能な限り心膜液の除去を第一次選択として施行すべきと再確認した。
4.剖検において,心基部領域に約3×2×2.5cmの腫瘍がみられ,心房とくに右心耳への圧迫が観察された。また,肉眼的に腫瘤表面には明らかな破綻部位はなかったものの,腫留の割面で一部に黒色調の出血部位があり,この領域が心外膜に達し心膜腔内に出血した可能性がもっとも高いと考えられ,出血した血液が心膜腔内に充満し,機能的な概念である心タンポナーデを招来したものと考えた。
5.心タンポナーデに対する心エコー図検査の評価は,病理所見の支持も得られ臨床診断としての心エコー図検査の診断根拠となる所見が確認でき,さらに無侵襲な点を加え,その循環動態の把握においても有用な検査方法であることが示唆された。