日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
原著
5cm未満の腹部大動脈瘤を経過観察することは妥当か?
渡辺 徹雄佐藤 成橋爪 英二後藤 均半田 和義赤松 大二朗佐藤 博子清水 拓也中野 善之里見 進
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2006 年 15 巻 1 号 p. 3-9

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抄録

われわれは最大短径が5cm以上の腹部大動脈瘤 (AAA) に対しては積極的に手術を行い, 5cm未満の症例は経過観察し, 5cm以上に増大した時点で手術を行う方針としている. この妥当性を検証するため, 全受診例の遠隔予後を調査検討した. 8年間に受診した最大短径4cm以上の非破裂AAA全症例を対象とし, 各症例の瘤径, 治療方針, 非手術例では遠隔期手術, 破裂発生, 転帰を調査し, 早期に手術施行した早期手術群, 手術非施行の経過観察群 (5cm未満 : 4cm観察群, 5cm以上 : 5cm観察群) に分け検討した. 全AAA 261例中1例が追跡不能で検討症例は260例, 追跡率99.6%であった (早期手術群125例, 経過観察群135例). 経過観察群中52例に遠隔期に待機手術が施行された (全例5cm以上). 経過観察群の14例で破裂が発生したが, 5cm未満での破裂はなかった. 5cm観察群の破裂の累積発生率は4cm観察群に比べ有意に高かった. 経過観察群の初診後累積生存率は早期手術群に比べ有意に予後が悪かった (5年生存率 : 早期手術群77.8%, 経過観察群58.3%) が, 4cm観察群は早期手術群や日本人の推定予後曲線と同様であった. 待機手術例の在院死亡率は0.6%で, 術後累積生存率は早期手術群と経過観察の後手術を行った群とに差はなかった (早期手術群76.8%, 経過観察群75.1%). また4cm観察群と5cm観察群とでも術後予後に相違はなかった (4cm観察群74.8%, 5cm観察群78.6%). 今回の検討の結果から, 5cm未満の腹部大動脈瘤は注意深い経過観察を行い, 瘤が5cm以上に増大した時点で待機手術を施行するのが妥当と考える.

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