2006 年 15 巻 4 号 p. 435-440
腎動脈上遮断を要する腎動脈近傍腹部大動脈瘤 (AAA) に対する, 冷却リンゲル液灌流による腎保護法を用いた当科の外科治療成績および腎保護効果を検討した. 対象は2001年1月より2005年10月までに腎動脈上大動脈遮断を要したAAA 18例中, 維持透析例を除き冷却リンゲル液灌流による腎保護法を行った15例. 全例男性, 年齢72±6歳. 最大瘤径54±8mm. 手術は腹部正中切開経腹膜アプローチにより, 11例で両側腎動脈上遮断, 4例で片側腎動脈上遮断を行った. 遮断中は冷却リンゲル液による腎灌流を極力行い, 両側腎動脈上遮断例では11例中7例に両側, 4例に片側灌流を行った. 2例で腎動脈再建を行った. 腎虚血時間46±23分. 後出血による再開腹を1例認めたが, 血液浄化を要する症例はなく, 病院死亡も認めなかった. BUN値, CRE値は手術前 (17.2±5.6mg/dl, 0.97±0.31mg/dl) と比較して, 術後一過性に上昇する傾向にあったが (20.6±7.2mg/dl (P=0.046), 1.43±0.80mg/dl (P=0.02)), 回復期には術前値へ復した (13.3±5.1mg/dl, 0.96±0.39mg/dl). 腎虚血時間45分以上の症例においても45分未満の症例と比較してBUN値, CRE値に有意差は認めず, 腎虚血時間60分を超える2例を除く術後BUN値, CRE値変化率は腎虚血時間と相関関係を認めなかった. 冷却リンゲル液灌流による腎保護法は有効で, 当科の外科治療成績は良好であった.