抄録
1997年12月から2005年8月までに経験した急性IIIb型大動脈解離123例中, 腹部臓器虚血にて緊急治療を要した11例 (8.9%) を対象とし, その成績をもとに治療方針について検討した. 11例は, 平均年齢62.3歳, 男性6例であり, Stanford A型 (逆行性解離) 2例, Stanford B型9例であった. 緊急治療は, 画像検査での腹部分枝血流障害の所見と急性腹症の理学所見があれば適応とする方針とした. 11例全例 (100%) で偽腔血流が盲端であり, 腹部臓器虚血診断時に腹部症状を呈したのは8例 (72.7%), 血液検査でアシドーシスを認めたのは3例 (27.3%) であった. 11例中4例 (36.4%) を失った. 腹部臓器虚血の発生機序別にみると, 真腔狭小化型 (7例) ではopen stent術を施行した5例は全例独歩退院したが, 経皮的大動脈内ステント挿入術および上腸間膜動脈バイパス術を施行した症例は失った. 分枝解離型 (2例) では, 1例に腹腔動脈ステント挿入術を, 1例に腸管切除+回結腸動脈バイパス術を施行し, 2例とも生存した. 混合型 (2例) では, ともにopen stent術を施行したが2例とも失った. 腹部臓器虚血を伴う急性IIIb型大動脈解離の予後を決定する重要な因子は, 「臓器虚血の迅速かつ的確な診断」と「適切な治療法の選択」であり, 前者には偽腔血流の盲端を把握することが, 後者には臓器虚血発生機序を理解することが重要と思われた.