日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
原著
冠動脈バイパス術を要する末梢血管疾患の治療戦略
石井 浩二明神 一宏石橋 義光川崎 正和松川 誠國重 英之
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2007 年 16 巻 1 号 p. 31-36

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抄録

末梢血管疾患における冠動脈病変の頻度や治療戦略,治療成績について検討した.1996年 4 月より2004年12月までに治療を要した腹部大動脈瘤(AAA)は297例(男性241例,女性56例),閉塞性動脈硬化症(ASO)164例(男性138例,女性26例)であった.2001年以降は,術前に全例冠動脈造影もあわせて行う方針としており,連続220例(AAA 124,ASO 96)に冠動脈病変の評価を行った.27例(12.3%,AAA 16,ASO 11)に虚血性心疾患の既往を認め,残りの193例中71例(36.8%,AAA 40,ASO 31)に冠動脈造影上有意狭窄を認めた.しかしながら胸痛等の自覚症状を有していたのは 6 例(8.5%,AAA 4,ASO 2)に過ぎなかった.冠動脈病変の内訳は一枝病変35例(18.1%,AAA 20,ASO 15),二枝病変24例(12.4%,AAA 12,ASO 12),三枝病変 8 例(4.1%,AAA 6,ASO 2),左主幹部病変 + 三枝病変が 4 例(2.1%,AAA 2,ASO 2)であった.冠動脈バイパスをも要したのはAAA 297例中32例,ASO 164例中24例の計56例(12.1%)で,男性46例,女性10例,平均年齢は72.1 ± 6.4(54~85)歳であった.冠動脈バイパス先行群が39例,末梢血管疾患先行群が10例,一期群が 7 例であった.バイパス先行群では待機中にAAAの破裂 1 例,病院死亡 2 例,遠隔死亡 1 例を認めた.末梢血管疾患では死亡例や術中・待機中の心イベントはなかった.末梢血管疾患を先行した理由は,AAA破裂・切迫破裂,巨大瘤(径 ≥ 60mm),重症虚血趾等であった.一期群では死亡例はなかったが,合併症として縦隔炎 2 例,後腹膜血腫 1 例があった.末梢血管疾患には高率に冠動脈病変が合併することから,周術期の合併症を防ぐために術前に冠動脈造影を行い治療方針を決めるべきである.治療を要する冠動脈病変がある場合,まず冠動脈の治療を行った後に二期的に末梢血管疾患の治療を行った方が安全と思われるが,瘤径が60mmを超える場合や重症虚血趾を有する場合には同時手術が望ましい.

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