日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
原著
胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術の医療経済的評価
吉村 耕一古谷 彰森景 則保小野田 雅彦濱野 公一
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2007 年 16 巻 5 号 p. 661-670

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抄録

【目的】近年, 医療経済的な視点から医療を見直す必要性が指摘されている. 本研究では, 胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(EVAR)の有用性を治療成績のみならず医療経済的評価をふまえて検討した. 【対象と方法】胸部下行および遠位弓部大動脈瘤に対する自験のEVAR 14例と同時期の従来手術(OSR)9 例をケースコントロール研究の対象とし, 早期治療成績, 中期予後ならびに医療費を比較検討した. さらに, 胸部下行大動脈瘤治療の決定樹モデルを作成し, 本邦の治療成績と包括医療制度を反映させ, EVARとOSRの医療費の期待値を解析した. 【結果】ケースコントロール研究において, 入院死亡と中期までの動脈瘤関連死亡は認められず, 両群の差は認められなかった. 入院総医療費は, EVAR群262.0 ± 16.9万円, OSR群694.2 ± 86.1万円であり, EVAR群はOSR群よりも有意に低値であった(p < 0.01). モデル分析において, EVARの総医療費は318.0万円とOSR 543.6万円より低値であった. 入院期間, EVARの再治療率およびステントグラフト費用を変動させた感度分析を行ったが, いずれの場合もEVARの医療費がOSRを上回ることはなかった. また, モデル分析のために収集した本邦の報告において, EVARの治療成績が明らかにOSRに劣ることはなかった. 【結論】EVARは, OSRより明らかに少ない医療費でOSRにひけをとらない治療成績を達成しており, EVARの優れた医療経済性が示されたものと考えられる.

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