日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
原著
90歳以上の高齢者の大動脈緊急症例の検討
藤井 弘史中尾 佳永徳田 貴則岡田 隆之北澤 康秀
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2008 年 17 巻 3 号 p. 439-445

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抄録

【背景】高齢化に伴い緊急状態の大動脈疾患のために救急治療を要した90歳以上の高齢者の報告が散見されるようになった.しかし,これらは 1 例報告が主で,しかも成功例の報告であり,その実態は不明である.【対象と方法】最近の55カ月間に関西医科大学の救命センターに心肺停止とならずに搬送された90歳以上の緊急状態の大動脈疾患の患者について治療成績と問題点を検討した.Stanford A型急性大動脈解離が 2 例,Stanford B型急性大動脈解離が 2 例,胸腹部大動脈瘤破裂が 1 例,腹腔内破裂の腹部大動脈瘤が 1 例,後腹膜腔内破裂の腹部大動脈瘤が 1 例,切迫破裂の腹部大動脈瘤が 1 例であった.【結果】腹部大動脈瘤 3 例のうち 2 例は以前から動脈瘤を指摘されていた.2 例とも認知症を理由に手術を拒否していたが,緊急状態に陥ってから手術を希望した.認知症のなかった 1 例は順調に回復した.認知症の 2 例は術後の食事が再開できていたが,誤嚥を契機に 1 例は誤嚥性肺炎で死亡し,もう 1 例は窒息による心肺停止後の蘇生後脳症となった.胸部大動脈疾患 5 例のうち緊急手術を要する状態であったのは 3 例.A型急性大動脈解離 2 例のうちの 1 例は手術により自宅退院することができたが,もう 1 例は手術準備中に心タンポナーデのため死亡した.また,胸腹部大動脈瘤破裂例では重度の大動脈弁閉鎖不全による心不全のため人工心肺から離脱できずに死亡した.B型急性大動脈解離の 2 例は保存的治療で良好な結果が得られた.【結語】90歳以上の高齢者であっても救命することを優先すべきと思われるが,認知症を伴った症例の手術適応については検討する必要がある.

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