抄録
【背景】動脈手術における手術部位感染から派生する代用血管感染は時に致命的な結果をもたらす重大な合併症でありその予防が最も確実な回避法と考えられている.感染で死亡した例を契機として動脈手術においていくつかの手術部位感染予防措置を加えたのでその効果を検証してみた.【方法】2002年 4 月より2007年 5 月に同一手術チームによって施行された代用血管を用いた動脈手術全症例197例を対象とし,2005年 1 月に感染予防措置を一新する以前の前期群101例と以後の後期群96例に分け手術部位感染の発生を比較した.なお糖尿病合併例,透析例,膠原病合併例,術前ステロイド使用例などは群間で差はなかった.感染に対する変更した主な予防措置としては(1)抗生剤は皮膚切開前に投与,(2)グルコン酸クロルヘキシジンエタノールでの皮膚消毒,(3)手洗い時ブラシ使用の中止,(4)閉創前の創部生食洗浄,(5)ePTFE製人工血管の多用,(6)創のフィルムドレッシングでの隔離,(7)術後の創消毒の中止であった.【結果】手術部位感染(皮下組織以下に及ぶ感染)が生じたのは前期で 7 例,後期では 0 であった(p = 0.015).手術関連死亡は前期で 5 例(4.9%),後期で 2 例(2.1%)と,有意差はないものの前期死亡例のうちグラフト感染を伴い病院死した例が 3 例あった.感染発生と糖尿病,膠原病合併,透析の有無に有意な相関関係はなかった.【結論】手術部位感染予防として上記措置を講じることは手術部位感染の頻度を低下させ術後成績を向上させる可能性が示唆された.