2009 年 18 巻 5 号 p. 587-590
症例は50歳,女性.主訴は右下肢腫脹,既往歴は両側変形性膝関節症.現病歴は,2004年12月上旬から右下肢腫脹が出現し当科を受診した.初診時身体所見では右鼠径部から大腿部に硬性浮腫を触知し,また若干の大腿周径増大を認めた.血液検査上明らかな異常はなく,D-dimerも0.5μg / ml以下と正常であった.造影CTで,嚢胞による右大腿静脈の圧排がみられた.嚢胞の存在部位から腸恥滑膜嚢胞炎が疑われた.一時症状は改善したが,2005年 1 月中旬から再び右下肢腫脹が出現した.下肢静脈造影で腫瘤による大腿静脈の圧迫を認め,腫脹の再燃,深部静脈血栓症のリスクが高いことから嚢胞の穿刺吸引を施行した.しかし,右大腿静脈の狭窄と嚢胞の残存を認め,2 月中旬嚢胞切除術を施行した.術中所見で,腫瘤は腸腰筋の筋膜から派生しておりこれを鋭的に切除した.解剖学的に腸恥滑膜嚢胞炎と診断した.下肢腫脹が改善し軽快退院となった.下肢浮腫の鑑別に稀ながら腸恥滑膜嚢胞炎を考慮に入れるべきと考えられた.