抄録
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は比較的稀な病態とされ,血栓症を発症した場合の予後は不良とされる.症例は80歳女性で,急性大動脈解離(DeBakey II型)に対し,ヘパリン18,000単位を使用し,上行大動脈置換術を施行した.術後10日目に急性血栓性肺塞栓症を発症したため,治療薬として,ヘパリン10,000単位/日の持続投与を開始した.術後14日目に肺炎からの敗血性ショックを併発し,急激な血小板減少を認めた.血小板減少は,敗血症性DICによるものと思われたが,術後18日目には血小板が0.4×104/μlまで低下し,血液検査でHIT抗体陽性であったため,ヘパリンを中止しアルガトロバン0.2 μg/kg/minの持続投与を行った.血小板は,術後30日目には30×104/μlまで回復し,独歩退院となった.急激な血小板減少を認めた場合,DICとHITは鑑別困難なことがある.血管外科手術で,先行するヘパリンの使用がある場合はHITを念頭に置く必要がある.