日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
原著
左胸腔内に伸展した遠位弓部大動脈瘤に対する胸骨正中切開からの術野展開の工夫
向井 省吾尾畑 昇悟森元 博信古川 智邦平岡 俊文
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2011 年 20 巻 4 号 p. 705-710

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抄録

遠位弓部大動脈瘤に対する弓部大動脈再建術(TAR)は,従来の胸骨正中切開・弓部大動脈を介してのアプローチでは,末梢側吻合部が左肺門部に近接すると術野が狭く,しばしば深部の手術操作に難渋する.本稿では胸骨正中創から左胸腔を大きく開放し下行大動脈に直接アプローチすることにより,大動脈瘤末梢側が左肺門部レベルであっても視野が良好で吻合操作が容易な術野展開を紹介する.【対象】2006. 1. 1~2009. 12. 31に大動脈瘤や大動脈解離の慢性期拡大により病変部が左肺門部近傍に伸展した24例にTARを行った.【術式】左側胸骨裏面に接する左胸膜を大動脈弓の高さから横隔膜に至るまで大きく切開して左胸腔を開放する.体外循環を確立後,心停止させ左室にventing tubeを挿入し心臓を充分に虚脱させる.心臓と左肺を一塊に右側へ授動すると,下行大動脈を横隔膜近傍まで俯瞰することができる.中等度低体温で弓部大動脈を切開して選択的脳灌流を開始する.大動脈瘤切除を行い吻合部に3~4箇所水平マットレス縫合をおいて牽引すると,良好な術野を得ることができる.末梢側吻合はturn-up法で行う.弓部グラフト側枝から送血を開始し,次いで弓部分枝再建を行う.【結果】本術式での下肢循環停止時間は51.9±18.5分であった.術後重篤な呼吸器合併症を来した症例はなく,概ね術後1日目に呼吸器から離脱した.死亡例は1例であった.【結語】われわれの術式は従来の大動脈弓からのアプローチに比し,術野の展開が良好で吻合・止血方法も容易であった.左胸腔内の強固な癒着のため,本術式が適応できない症例があった.

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