抄録
要 旨:膝関節周囲の鈍的外傷に伴う膝窩動脈損傷は稀ではあるが,早期の血行再建術が行われない場合には高率に下肢切断に至る病態である.われわれは,鈍的外傷後に遅発性に発症した膝窩動脈閉塞の1例を経験した.症例は17歳,女性.交通外傷にて右膝部を打撲し,受傷後同部位から下腿にかけての腫脹が出現したが,2週間ほどで自然軽快した.受傷約4カ月後に間歇性跛行を自覚するようになり,MRA検査で右膝窩動脈の分節的閉塞を指摘された.血行再建を行う方針として当科に入院し,右大伏在静脈をin situグラフトとして使用した右膝上膝窩動脈-膝下膝窩動脈バイパス術を施行した.術後に腓骨神経麻痺による一過性の下垂足を認めたが,跛行症状は消失した.膝関節周囲の鈍的外傷においては膝窩動脈損傷を念頭に置いた診断,および治療が必要であり,また本症例のような遅発性の動脈閉塞にも留意すべきである.