抄録
【目的】腹部大動脈瘤破裂についての臨床研究の多くは手術症例を対象としている.しかし実際には手術に至らず死亡する患者が非常に多く,手術症例のみを対象とした検討では疾患の全体像を反映しているとはいえない.来院したすべての腹部大動脈瘤破裂症例を検討し,全体の救命率を上げる方法を考えた.【方法】2002年5月~2011年5月の期間,腹部大動脈瘤破裂(疑い,切迫を含む)の病名のある患者全員のカルテを確認.その中で画像または手術にて腹部大動脈瘤破裂の診断が確定した79例を対象とした.受診経路,診断に至る過程,治療経過,転帰について検討した.【結果】受診経路は,他院からの転院37例(47%),救急車32例(40%),一般外来7例(9%),入院中3例(4%)であった.診断については,受診時に破裂の診断のある患者34例(43%),AAAの診断のある患者20例(25%),全く診断のない患者25例(32%)であった.当院で破裂の診断の必要な患者45例の診断に要した時間は,1時間以内32例(71%),1~3時間10例(22%),6時間以上3例(7%)であった.治療および転帰については,救急外来で死亡13例(16%),手術希望なく病棟で死亡14例(18%),手術室にて蘇生のみ行い死亡4例(5%).手術施行できた患者は48例(61%).手術中に死亡2例(3%),術後死亡8例(10%),生存退院38例(48%)であった.【結論】腹部大動脈瘤破裂例の手術施行率61%,全体の救命率は48%であった.手術に至らず死亡する患者は多く,破裂前の診断治療が重要である.手術施行率を上げるために,破裂時の早期診断も重要である.