抄録
要 旨:【目的】近年,腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(EVAR)が普及しているが,腎機能障害例に対し術中・術後造影剤の影響を考慮しEVARか,人工血管置換術(GR)にするか悩む症例も少なくない.今回EVARとGRで術後腎機能に対する影響を比較検討した.【方法】2008年8月から2009年10月の待機症例,GR 25例(男23,女2),EVAR 25例(男23,女2).術前透析患者は除外した.動脈瘤はすべてinfra renal typeで形態的にEVAR可能な症例は腎機能にかかわらずEVARを施行した.GRは全例腎動脈下遮断で施行した.腎機能障害EVAR症例は術前後に補液治療を施行,術中造影剤も40~50 ml程度にした.全患者の推定糸球体濾過量(eGFR)から日本腎臓病学会の慢性腎臓病(CKD)stage分類(stage 1-4)をし術前後で比較した.自然経過でもeGFRが低下するため術後eGFR 20%以上の低下を有意とした.【結果】術前後CKD stage(前:後)はGR群:stage 1=3 : 1,stage 2=4 : 7,stage 3=16 : 13,stage 4=2 : 4,stage 5=0 : 0.悪化例は6例(24%).EVAR群:stage 1=1 : 2,stage 2=15 : 14,stage 3=5 : 6,stage 4=4 : 2,stage 5=0 : 1.悪化例は1例(4%).術後eGFR 20%以上低下例はGR群6例(24%),EVAR群2例(8%)とGR群で有意に多かった.【結論】腎機能障害例でも術前後に補液治療を行い,造影剤を最小にすることでEVAR可能と考えられた.