抄録
要 旨:鈍的外傷による胸部大動脈損傷は受傷直後より多くが死に至る重篤な疾患であり,その救命にあたっては多臓器損傷の管理を含めた治療戦略が必要である.今回,われわれは上行大動脈に限局する解離像を呈した上行大動脈損傷に対し,準緊急的手術で救命した1例を経験したので報告する.症例は76歳男性で自動車運転中の衝突事故により前胸部を強打し上行大動脈損傷を発症.来院時の意識レベル低下および多発肋骨骨折,脾損傷を認めていたことから超急性期の手術を避け,受傷後16時間後に頭部および腹腔内の重篤な臓器出血がないことを確認し,受傷後20時間で手術の方針となった.手術ではST junctionの直上の右側壁に内膜断裂像を認め,同部位を除外するように上行部分弓部大動脈人工血管置換術を施行した.術後合併症もなく良好な経過を得た.