2016 年 25 巻 p. 105-109
要旨:頸部刺創は稀であるが,重要臓器の損傷が多く致死的な合併症を起こしうる.頸部刺創に対する治療法についてはいまだ定まった見解がない.われわれは左頸部刺傷後の左総頸動脈-内頸静脈瘻に対し,手術による血管修復を行った1 例を経験したので報告する.患者は34 歳,女性.自ら左前頸部をナイフで刺傷し,造影CT で左総頸動脈および内頸静脈からの造影剤の血管外漏出,および早期相における左内頸静脈の描出を認め,外傷性血管損傷に伴う仮性動脈瘤,左総頸動脈-内頸静脈瘻の診断で当院に紹介された.緊急手術を胸骨正中切開,左頸部切開によるアプローチで行った.術中所見では左総頸動脈前壁,左内頸静脈前後壁に欠損孔を認め,動静脈瘻の形成により体表への出血,循環動態の破綻を来さなかったと考えられた.総頸動脈単純遮断,直接縫合でそれぞれ血管修復を行った.術後は神経学的合併症を認めず良好な経過を得た.鋭的頸部血管損傷に関して,若干の文献的考察を加えて報告する.