抄録
要旨:症例は67 歳女性である.進行胃癌のため当院へ入院した.胃癌による幽門狭窄のため経口摂取が困難であり,手術前に右鎖骨下静脈から中心静脈カテーテルが留置された.中心静脈カテーテル留置の1 週間後に撮影された造影CT で,上大静脈内に血栓を形成していることが判明した.ヘパリンによる抗凝固治療を行ったが血栓は増大傾向を示した.このため周術期の肺塞栓予防目的で上大静脈内に静脈フィルターを留置した.フィルター留置に伴う合併症はみられなかった.胃切除後の術後経過は良好で,術後肺塞栓の併発はみられなかった.カテーテル留置に起因した二次性の上肢深部静脈血栓症では,肺塞栓を合併する頻度が高いとされている.この場合,治療としては抗凝固療法が第一選択であるが,抗凝固療法が無効の場合は上大静脈フィルター留置も選択肢として考慮する必要がある.上大静脈フィルター留置は肺塞栓予防に有効で,安全に施行できるものと考えられた.