2020 年 29 巻 2 号 p. 131-135
症例は63歳女性.62歳時に急性A型大動脈解離に対し上行大動脈人工血管置換術を施行した.今回,遠位弓部残存解離の拡大があり,遠位弓部大動脈にエントリーを認め,腹腔動脈,上腸管膜動脈,右腎動脈が偽腔から分岐していた.腹部臓器虚血予防を目的に偽腔内圧を測定しながら胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)によるエントリー閉鎖を施行した.周術期,腸管虚血などの合併症はなく,術後11日目に退院した.術後1年の造影CT検査で遠位弓部の偽腔は血栓閉塞し瘤径の縮小を認めた.腹部主要分枝が偽腔灌流の慢性解離性胸部大動脈瘤に対するTEVARにおける偽腔内圧の測定は術中に腹部分枝の虚血の評価において有効であった.