2025 年 34 巻 4 号 p. 139-145
下肢麻痺を合併した大腿動脈瘤はまれである.症例は84歳,男性で,主訴は突然の右下肢麻痺.MMT scaleは0で,大腿神経麻痺だけでなく坐骨神経麻痺も伴っていた.頭部CTと頭部・脊椎MR検査で下肢麻痺の原因となる脳脊髄病変はなく,全身造影CT検査で壁在血栓を伴う右総大腿動脈瘤を認めた.この時点では,総大腿動脈瘤が急速に拡大し切迫破裂となり大腿神経を圧迫していると考え,緊急手術を行った.10 mmの人工血管で総大腿動脈瘤を置換し,深大腿動脈を端側吻合で再建した.積極的にリハビリテーションを行ったが,術後2週間の時点で麻痺はMMT scale 1程度にしか改善していない.突然の麻痺発症,大腿神経と坐骨神経両方の麻痺,麻痺改善の遅延などから,動脈瘤の神経への直接的な圧迫よりはむしろ,動脈瘤の壁在血栓から神経の栄養血管への血栓塞栓が麻痺の原因の鑑別として考えられたが,確定することはできなかった.