海洋堆積物には, そこに存在する魚類由来の環境DNAが含まれており, それらは長期間残存することが知られている。そのため, 海洋堆積物は過去の魚類相の履歴を保存していると考えられ, 堆積物中の環境DNA解析は, 水中の環境DNA解析とは異なる時間スケールでの魚類相の情報をもたらすものと期待されている。しかしながら, これまでに環境DNAを用いた魚類相のメタバーコーディング (多種同時検出) 解析を海洋堆積物に適用した例はない。そこで本研究では, 岩手県大槌湾より東日本大震災に伴う巨大津波後に採取された堆積物試料から環境DNAを抽出し, 魚類相のメタバーコーディング解析を行った。その結果, 調査期間を通して17種類の魚類DNAを検出することに成功した。震災後, 調査年が経つにつれて, 回遊性魚類のリード数および種数を底生魚類のそれが上回る結果が得られた。この結果は, 三陸沿岸域で行われた目視あるいは曳網による先行研究の観測結果と整合的であった。このことは, 本研究において得られた結果が, 震災後の魚類相の変遷過程を復元している可能性を裏付けるとともに, 環境DNAによる魚類相のメタバーコーディング解析を海洋堆積物試料に適用できる可能性を支持するものであると考えられる。