水環境学会誌
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44 巻, 4 号
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研究論文
  • 藤井 雄太, 三塚 和弘, 緒方 浩基, 井上 大介, 池 道彦
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 44 巻 4 号 p. 69-77
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究では, 地下水中におけるクロロエチレン類の嫌気分解を誘導する水素供与体としてのグルコン酸の汎用性を検証することを目的とした。クロロエチレン類で汚染された様々なサイトから採取した, 微生物叢の異なる5種類の地下水を対象として, グルコン酸を水素供与体として用いたトリクロロエチレン (TCE) の分解実験を行った。その結果, 脱塩素化速度は地下水により異なったが, 全ての地下水において脱塩素化に関連する遺伝子数が顕著に増加し, 最終的にクロロエチレン類の完全脱塩素化が達成された。当初はTCEの完全脱塩素化に長期間を要した地下水でも, グルコン酸の添加を繰り返すことで, 有害な代謝物であるクロロエチレン (VC) を残存させず, 完全脱塩素化を速やかに進行させることが可能となった。以上の結果から, グルコン酸は多様な地下水においてクロロエチレン類の完全脱塩素化を可能にする, 汎用性の高い水素供与体であることが示された。

ノート
  • 白垣 友寛, 井上 拓, 福田 秀樹, 潮 雅之, 日下 美樹, 岡野 孝哉, 高巣 裕之
    原稿種別: ノート
    2021 年 44 巻 4 号 p. 79-84
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー

    海洋堆積物には, そこに存在する魚類由来の環境DNAが含まれており, それらは長期間残存することが知られている。そのため, 海洋堆積物は過去の魚類相の履歴を保存していると考えられ, 堆積物中の環境DNA解析は, 水中の環境DNA解析とは異なる時間スケールでの魚類相の情報をもたらすものと期待されている。しかしながら, これまでに環境DNAを用いた魚類相のメタバーコーディング (多種同時検出) 解析を海洋堆積物に適用した例はない。そこで本研究では, 岩手県大槌湾より東日本大震災に伴う巨大津波後に採取された堆積物試料から環境DNAを抽出し, 魚類相のメタバーコーディング解析を行った。その結果, 調査期間を通して17種類の魚類DNAを検出することに成功した。震災後, 調査年が経つにつれて, 回遊性魚類のリード数および種数を底生魚類のそれが上回る結果が得られた。この結果は, 三陸沿岸域で行われた目視あるいは曳網による先行研究の観測結果と整合的であった。このことは, 本研究において得られた結果が, 震災後の魚類相の変遷過程を復元している可能性を裏付けるとともに, 環境DNAによる魚類相のメタバーコーディング解析を海洋堆積物試料に適用できる可能性を支持するものであると考えられる。

技術論文
  • 鈴木 援, 谷口 崇至, 中野 和典
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 44 巻 4 号 p. 85-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー

    本研究では, 下水処理場内に設置したパイロットスケールの多段型人工湿地の重層化ろ床及び非重層化ろ床の処理水質を比較し, ろ床の重層化の影響を検証した。鉛直流条件では, ろ床の重層化はBODやNH4+-Nの除去などの好気処理性能に影響せず, 非重層化ろ床と同等に機能するが, 鉛直流と水平流を組み合わせたハイブリッド条件では, 重層化ろ床は嫌気的になり易く, 好気処理性能が低下することが明らかとなった。さらに, 重層化ろ床に植物がないことによる影響が窒素除去性能の低下として現れることが明らかとなった。鉛直流条件では, ろ床の重層化によりBOD及びリンの除去原単位を1.5倍程度改善できたが, 窒素の除去原単位を改善することはできなかった。本人工湿地による下水処理におけるエネルギー消費原単位は0.32 kWh m-3と極めて低く, 無曝気で好気処理が行える人工湿地が下水道事業の脱炭素化に非常に有効であることが示された。

  • 石川 百合子, 小松原 由美, 江里口 知己
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 44 巻 4 号 p. 95-102
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー

    河川流域の化学物質のリスク評価を促進させることを目的として, 2017~2019年の多摩川におけるビスフェノールAを対象とし, 産総研-水系暴露解析モデル (AIST-SHANEL) の河川水と底泥の化学物質濃度の推定精度を評価した。PRTRデータを用いて河川水および底泥濃度を推定した結果, 両者とも実測値よりも1桁以上低くなった。流量の妥当性を確認したうえで, ビスフェノールAのPRTRデータ以外の排出量を追加し, 再計算した結果, 河川水濃度の推定値は実測値の濃度レベルとほぼ一致した。底泥濃度の推定値は全体的に過小評価の傾向が見られたが, 調査地点の約1/3は実測値と同程度となった。本研究は多摩川でのビスフェノールAを対象とした推定精度の評価であり, AIST-SHANELの積極的な活用を促進するためには, より多くの河川や化学物質を対象とした精度評価を蓄積し, モデルの妥当性の検討を進めていく必要がある。

調査論文
  • 細田 耕, 勢川 利治
    原稿種別: 調査論文
    2021 年 44 巻 4 号 p. 103-114
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    京都市の下水処理放流水は, 塩素またはオゾンによる消毒を行い, 河川に放流している。この放流水について, 消毒副生成物及び塩素による消毒副生成物生成能に関する調査を行った。いずれの放流水も, 消毒副生成物生成能に特徴があり, それらは流入下水の水質に依存していると考えられる。オゾン処理により, クロロホルム生成能などは減少したが, ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド生成能は増加した。ただし, ホルムアルデヒド生成能からホルムアルデヒドの値を差し引いた値は減少していることから, ホルムアルデヒド前駆物質がオゾン処理によってホルムアルデヒドに変化したことにより減少したと推測された。加えて, 放流水中のホルムアルデヒドは, 放流地点から下流において低下した。これらの結果より, 下流域へのホルムアルデヒドやホルムアルデヒド前駆物質, いくつかの消毒副生成物生成能の影響は, オゾン処理により減少していると考えられる。

  • 香川 裕之, 岩崎 雄一, 木村 啓, 犬飼 博信, 佐々木 圭一, 安田 類, 保高 徹生, 山縣 三郎, 河村 裕二
    原稿種別: 調査論文
    2021 年 44 巻 4 号 p. 115-124
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    飛騨川上流の支流に設定した, 鉱山廃水の流入前後の計11地点で金属等の水質と底生動物, 付着藻類の流程に沿った変化を調べ, 金属濃度が低い別の支流に設定した対照地点との比較により鉱山廃水流入による生態影響を評価した。鉱山廃水流入直後の調査地点では, 亜鉛等の金属濃度が高くなり (亜鉛は最大0.94 mg L-1) , 底生動物及び付着藻類の種数等は大きく減少し, 金属濃度が高い河川でも出現する分類群 (底生動物はコカゲロウ科等, 付着藻類は珪藻類のAchnanthidium属) が優占した。金属濃度は流程に沿って減少し, 当該調査の最下流地点で底生動物群集は対照地点と類似していた。底生動物と付着藻類の種数や群集組成の流程変化は類似していたが, 付着藻類では鉱山廃水流入直後に総細胞数が顕著に増加していた。金属類に対する水生生物の変化を包括的に理解するためには, 複数の生物グループを調査する必要がある。

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