2021 年 44 巻 5 号 p. 125-133
新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行の中, 下水疫学調査による感染流行規模の把握や変異株の早期検知が期待されている。本稿では, ウイルス感染症対策における下水疫学調査の実装に必要な要素および課題を解説した。下水疫学調査の実装のためには, 下水試料の採取方法と濃縮方法の最適化および下水中ウイルス濃度に基づく感染者数推定モデルの構築が必須である。日本国内においては, 感染症が定点把握疾患に分類される場合において, 下水処理場の流入下水の分析結果を用いて早期検知が可能である。感染者数推定モデルの構築においては, 感染症に共通の変数と感染症ごとに特有の変数が存在する。感染者のウイルス排出プロファイル等の個人差や処理区域人口の日内変動等に起因する変数の変動性や不確実性に対応可能なモデルの構築に引き続き取り組んでいく必要がある。