抄録
水利用に係る潜在的な生物学的健康リスクを評価するためには、水環境中における病原菌の出現を網羅的に理解することが重要である。本研究では、ヒト、動物、植物および魚介類に感染する1012種/グループの病原性細菌(バイオセーフティレベル2、3の全病原性細菌及び日和見感染菌を含む)の16S rDNAを標的としたオリゴヌクレオチドプローブを搭載したDNAマイクロアレイを用いて、近畿地方を流れる淀川及び北川の表層水中に存在する病原性細菌を調査した。採水は、淀川では4地点、北川では2地点から、季節ごとに行った。24試料に対するDNAマイクロアレイ解析の結果、合計87種/グループの病原性細菌が検出され、その約半数が両河川に存在した。また、河川水中の病原性細菌プロファイルは主として季節の影響を受けて変化することが示唆された。下水処理場の上流及び下流に位置する採水地点における病原性細菌プロファイルの比較から、病原菌の潜在的な排出源と考えられる下水処理場の処理水は、本研究の調査河川では病原性細菌の出現に重大な影響を及ぼしていないことが示唆された。さらに、複数の試料で検出された病原性細菌30種について、大腸菌群数(現在の衛生学的指標)との関連性を検討した結果、7種の非糞便性病原性細菌を含む11種の病原性細菌が大腸菌群数と正の相関を示さないことが確認された。このことから、現在用いられている糞便汚染のための衛生学的指標では、河川水における病原性細菌汚染に係る健康リスクの包括的評価には不十分であり、新たな指標群の体系化が必要であると示唆された。