抄録
大型水槽(容量1トン)に沈水植物19種を種別に1年間栽培した。各沈水植物が代謝した他感作(アレロパシー)物質が包含された水槽表層水(沈水植物19種および対照系1)の濾液を小型水槽に湛水し、ミジンコの休眠卵からの飼育試験を実施した。各系ミジンコ休眠卵100個からの孵化率(%)は、タヌキモ2%、ホザキノフサモ3%であり、無植栽の対照系4%よりも低かった。一方、ガシャモク85%、ヒロハノエビモ73%、インバモ62%、センニンモ58%などは著しく高い孵化率が達成された。これらの相違は、水生植物の代謝した物質にミジンコ休眠卵が反応し、ミジンコの孵化が促進・阻害されたものと考えられる。孵化後のミジンコ個体数の推移に着目すると、ホザキノフサモ、リュウノヒゲモ、ヤナギモ、タヌキモ、オオトリゲモの5種では、実験開始7週目までにミジンコが全て死滅。孵化率の高かったガシャモク、ヒロハノエビモ、インバモ、センニンモでは400個体/l-1以上のミジンコ生息密度が維持された。次いでセキショウモ、コウガイモ、エビモ、ササバモの4種において100個体/l-1程度の高いミジンコ生息密度が確認された。対照系(植栽無し)におけるミジンコ個体密度30~40個体/l-1よりも明らかに低い密度を示したのが、シャジクモ、ヒメフラスコモの2種であった。対照系と同等のミジンコ密度だったのはハゴロモモ、ツツイトモ、イトモ、クロモの4種であった。これらの事実から、自然水域におけるミジンコの生息個体密度には、水質・底質・水流などのさまざまな環境要因の他にも、同地に繁茂する沈水植物が直接影響を及ぼしうることが明らかとなった。