抄録
トロトラスト患者の臓器吸収線量を推定するには, その主成分である232Thの体内分布量は勿論, 放射性崩壊によって生じる各娘核種の崩壊率比を知る必要がある. ラット尾静脈より注入されたトロトラストは, その約90%が生体内に沈着し長期間残留する. しかし, 娘核種のうちRaの約50%, Rnの10%が常時体外へ排泄されている. この動的平衡時における肝・牌臓での崩壊率比は, 224Ra/228Thがそれぞれ0.56, 0.54, 212Pb/228Thが0.28, 0.16であり, これまでに報告されたトロトラスト患者の剖検組織標本の測定による推定値に比し, 20-40%低い値を示した. 特に短寿命娘核種の崩壊率比の推定には死亡直後からの経時的な γ 線計測が不可欠である. さらに, リンパ節に顕著な沈着が認められ, 骨ではRaの持続的取り込みによる228Thの蓄積が確認された. 体外 γ 線計測による吸収線量推定には, これらの影響をも考慮した評価が必要である.