抄録
わが国における産業医制度は, 1972年の現行労働安全衛生法制走以来15年以上を経過し, 大きな転換期を迎えている. 現在の産業医制度の実態は, 第二次世界大戦以前から続いてきた構造的な問題点に加え, 産業医の高齢化, 後継者不足等が深刻化している反面, 新設医科大学の設置による医師過剰が現実化すると, 多数の未経験者が産業医の世界に流入することが予測される. そこで, 産業医研修制度の整備とそれを前提にした体系的資格制度の確立により, 産業医業務に対する社会的評価を高め, その結果さらに本来的使命を十分に果たせる産業医活勤の場を増加させることが緊急の課題である. そのためには, 産業医の業務, 専門性, 養成方法と課程, 適正な産業医数と配置, 関連専門家との関係, 地域医療制度の中での位置づけとサービス提供システム, 経営者, 労働者等に対する社会的啓蒙の方法等を総合的に検討する必要があり, これを推進するための具体的提言を行った.