抄録
本学の建学の使命の第1は「哲学する医師」を養成することであり, 医学概論(総合人間学)の教育目標もこれに一致する. 本邦における医学概論の創始者, 澤瀉久敬博士は医学概論とは「医学の哲学」であると定義している. 医学の哲学は医師, 研究者をはじめあらゆる職種の医療従事者のための哲学でなければならない. したがって, その哲学は医療の生の現場の体験から得られた具体的内容で支えられるべきである. 本稿は昭和57年後学期に医学部5年生に対して行われた「人間と医学」というテーマの講義シリーズの草稿を骨子にした, 「産業医科大学講義・医学概論・1982」の82-99頁の内容にもとづいている. 本稿において目ざしたことは, 医学の歴史という鏡に映し出された形をとって, 各時代の人間, 先哲らの哲学とともに, 著者自身の私見が読者に伝達されることである. Willam Hazlittがいうように, 古さの故に先人を笑う者は自らも物笑いの種にされる.