Journal of UOEH
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日本における分子生物学の起源
大林 雅之
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1986 年 8 巻 2 号 p. 251-256

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抄録
本論文の目的は日本における分子生物学の起源に関して若干の考察を試みることである. 日本における分子生物学の進展は長い歴史を持つものではなく, その起源は第二次世界大戦後に求めることができる. その起源として, ここでは次の3つのものを挙げる. (1)「バクテリオファージ」を扱う分子遺伝学の開始, (2)核酸に興味を持った生物学者, 生化学者, そして物理学者らによる研究会の結成, (3)戦前からの伝統を持つ酵素化学研究の再開, 以上の3つである. これらのうち, (1)と(2)は戦後に始まったものと言えるが, (3)については, そこで挙げた酵素化学というものが, 日本では戦前から生化学の主要研究課題の1つであったことに注意しなければならない. 日本において生化学は, 戦前から医学や農学に伝統を保持して発達してきたものである. それ故に, これらの分野が戦後において, 欧米から分子生物学を導入する上で重要な役割を担ったと言える. このような日本における分子生物学と生化学との関係についての研究は, 分子生物学の起源における物理学者の役割を強調する欧米の分子生物学史研究と比較すると, 日本の分子生物学の進展における特徴を明らかにする上で有効であると言えよう.
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© 1986 産業医科大学
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