住宅総合研究財団研究年報
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近世「町」共同体における都市居住システムに関する研究(2)
谷 直樹伊東 宗裕内田 九州男鎌田 道隆多治見 左近増井 正哉
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1991 年 17 巻 p. 83-94

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抄録
 本研究は,近世の京都・大阪・奈良における「町」共同体の空間構造と社会構造を解明し,わが国の風土や伝統の中で育まれてきた都市居住のシステムを描き出すことを課題とするものである。昨年度は個別の町を取り上げて紹介したが,本年度は京都・大阪・奈良における町の存在形態を相互に比較しながら,近世「町」共同体における都市居住システムの全体像を解明しようとしている。第1に「町」の社会構成と題して,京都・大阪・奈良の人口と家持・借家人の構成比率を,都市レベルと個別の町レベルにおいて統計的に明らかにし,さらに住人の生業,人口動態,町の諸組織などに関する考察を行なった。第2に「町」の空間構成と共有施設と題して,史料に基づいて町の空間構成を復元し,宅地割と建家の状況,町内の共用空間の重なり方,個々の家屋形態(戸建と長屋など),表家と裏家における棲み分けの状況などを検討した。さらに共用空間である道と溝,四辻と木戸,町会所,町橋,町並み規制などに着目し,とくに町会所の建築形態と歴史的変遷を明らかにした。第3に,町式目と勘定仕法と題して,町の独自の法令である町式目に着目し,その内容項目を分類して横断的・編年的に比較検討した。とくに自治機能(隣町との協定),社会的・空間的安定に関する規制(職種規制・借家人規制・建築町並み規制など),生活管理(相互扶助・紛争処理・防火消火システム),共有施設の維持管理,費用負担の方法など,住みよい町づくりをめざした,自発的な居住地管理に関する規定が盛り込まれている点を指摘した。第4に,近世の「町」から近代の町内へと題して,近世的「町」共同体の変質と分解,および近代における居住地管理機能の動向を概観した。最後に近世「町」共同体のあり方が,現代社会に示唆する諸点を指摘して,本研究の結びとした。
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© 1991 一般財団法人 住総研
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