日本獣医師会雑誌
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ミオグロビン尿症を伴つた放牧子牛のミオパシーに関する臨床ならびに臨床病理学的観察
一条 茂納 敏飯島 良朗更科 孝夫
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1987 年 40 巻 8 号 p. 562-566

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抄録

放牧開始2-14日後に突然の歩行困難または起立困難ならびにミオグロビン尿を排泄した哺乳子牛7例 (黒毛和種, 20-87日齢) と雌子牛1例 (ホルスタイン種, 311日齢) のミオパシーについて, 臨床ならびに臨床病理学的観察を行った.
哺乳子牛は白筋症, 雌子牛は麻痩性ミオグロビン尿と発病年齢を参考として診断された. 血液検査では, いずれも血清酵素 (GOT, GPT, LDH, CPK) 活性の著増と血清セレニウム (平均18.3±10.8PPb), トコフェロール (平均46.3±29.6μg/dl) の著減が特徴所見であった.また, 哺乳子牛の母牛と雌子牛の舎飼期と放牧期の飼料では, セレニウムは極度に低含量であり, α-トコフェロールは青草のみが正常含量で, 他は低値であった. 治療に酢酸d1-α-トコフェロールと亜セレン酸ナトリウムを投与したところ, 白筋症の1例を除く他の7例が回復した.
以上の成績から, 今回検索した放牧子牛の白筋症と麻痺性ミオグロビン尿症の発病原因は同一で, セレニウムとトコフェロールの欠乏による栄養性ミオパシーと判断された. 子牛のミオグロビン尿症を伴ったミオパシーとして, 麻痩性ミオグロビン尿症と白筋症があげられる.麻痺性ミォグロビン尿症は初放牧の若齢子牛にみるミオパシーで, 原因は急激な運動と異常気象が骨格筋の代謝異常を招くとする説4, 7, 8, 16)と栄養障害(セレニウムとトコフェロール欠乏)説2, 3, 6, 12, 14, 15, 18)などがあって一致せず, わが国では報告16)が少ないうえに詳しい検討はみられない. いっぽう, 子牛の白筋症はわが国でも舎飼期の哺乳子牛で発生し, 原因はセレニウム(以下Seと略す)とトコフェロール(以下Tocと略す)の欠乏であると報告9~11, 24)されたが, 放牧子牛の白筋症の報告はみられない.
われわれは最近, 放牧子牛に発生したミオグロビン尿症を主徴としたミオパシーに遭遇して, 主として発病原因を含めた臨床病理学的所見について検討したので報告する.

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