日本獣医師会雑誌
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正常犬の子宮造影所見
野村 紘一吉田 恭治島田 保昭
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1987 年 40 巻 8 号 p. 567-573

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抄録

臨床的に健康とみなされる雑種成犬30頭について, アジピオドンメグルミン液を用いて子宮造影を行ったところ, 次の結果を得た.
1) 経膣的に子宮造影が可能な時期は, 発情前期ないし発情期, ならびに分娩後であった. ほかの時期では子宮頸管が緊縮しているものが多く, 開腹手術による子宮内直接注入法を行った.
2) 発情前期ないし発情期では, 子宮幅は均一でやや増大し, 長さは性周期中で最大であった. 子宮は前後左右の屈曲運動を活発に繰り返えした.
3) 発情休止期の子宮は, コイル状からコルク栓抜器様形状を経てドリル状ないし螺旋状をなす特徴的形状を示した. 子宮運動は次第に緩慢となり, 休止期後期にかけてほとんど停止した.
4) 無発情期の子宮は幅が均一で細く, 直線的形状を示した.子宮運動もほとんど観察できなかった.
5) 分娩後の子宮は修復時期によって, 重弁状から鋸歯状まで, 複雑な形状を示した.分娩直後では, 胎盤部分の区別も可能であった.臨床的には従来から, 主として妊娠や子宮蓄膿症の診断のためにレントゲンによる子宮の単純撮影が広く行われているが, 病態所見の正確な把握のためには単純撮影だけでは満足すべき所見が得られない場合も少なくない.
最近, 犬の繁殖障害の診断のために子宮造影法が応用され, その報告も散見されるようになった1, 2, 5). しかし, これらの病態所見の解析には, 基礎をなす正常子宮の性周期における所見の把握が重要であろうと考えられるが, これらについての系統だった報告は少ない.
本研究は健康犬の各性周期における子宮形態の特徴を子宮造影法によって把握し, 子宮の病態所見を解析する場合の基礎資料とすることを目的として行った.

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