抄録
1987年の秋から1988年の夏にかけて, 北欧海域並びにバイカル湖に生息するアザラシにイヌジステンパー様の急性疾患による大量死が発生した. これら発生の最中, バイカル湖で捕獲され日本の水族館に導入されたアザラシと同室に飼育されていた他のアザラシに類似疾患が発生した. 罹患した6頭のうち4頭のアザラシは, 食欲不振, 呼吸困難, チックなどの臨床症状を示して死亡した. これらのアザラシにはII型肺胞上皮細胞の増殖と合胞性巨細胞形成をともなった, 急性間質性肺炎が特徴的に認められた. 好酸性核内並びに細胞質封入体がII型肺胞上皮細胞と気管支粘膜, 胆管, 膵臓の導管及び腎孟粘膜の各上皮細胞, リンパ節の細網細胞などに検出され, それらは電子顕微鏡的に morbilliviruses感染細胞に出現するものと同様な構造を持っていた. 回復したアザラシにはイヌジステンパーウイルスに対する中和抗体が存在した. 本発生例は我が国のアザラシにおける morbillivirus感染症の最初の報告である.