1988年9月末から11月にかけて鹿児島県下の種子島で, 突然, 牛流行熱(BEF)の発生が認められた. 発生パターンの疫学的特徴は, (1)最初2~3か所の農家で発生したBEFは約1か月間で地域全体にひろがった. (2)農家内におけるBEFは一定の接触感染率で伝播することが示唆された. これら記述疫学の知見を用いて,ポアソン分布とReed-Frostモデルへのあてはめを行って, 理論疫学による解析を試みた. その結果, 農家別の発生頭数の度数分布はポアソン分布によくあてはまった. この分布のような, よれにしか起らない事象が一定の時間あるいは空間においてランダムに生じるのは, BEF発生の場において一切ワクチネーションが行われてなかったことで, 牛群のBEFに対する感受性は均一であることを意味している. 同様に, 農家内で観察された発生頭数分布の推移について, Reed-Frostモデルの流行曲線をあてはめたところ, よくあてはまった. また, その感染伝播率はP=0.226であった. しかも, この農家における牛の飼養頭数, すなわちBEFに対する感受性牛が, もし5頭以下の場合には, 農家内での発生は初期段階で停止し, 発生は拡大しないことがこのモデルから明らかになった.