抄録
体幹に分布し, 第1腰髄節に入る背側皮膚・皮筋神経と腹側皮膚・皮筋神経を電気刺激することによって, 第1腰髄節に存在する外腹斜筋運動ニューロンのシナプス応答を, 細胞内記録法により調べた. この髄節性皮膚反射経路に, 上部脊髄ならびに脳からの下行性入力がどのような影響を与えているかを調べるために, 第4胸髄を切断した脊髄猫(49頭)とアルファ・クロラローズ麻酔猫(28頭)を用いた. 記録側ならびに対側の背側と腹側の皮膚・皮筋神経刺激では, 刺激強度の如何にかかわらず, 外腹斜筋運動ニューロンに対する単シナプス結合は存在しなかった. 閾値の1.2-1.5倍刺激で, 2シナプス性興奮性シナプス後電位の認められた例が2例あったが, その発生率は小さく, 圧倒的に多かったのは, 3シナプス結合以上の多シナプス性興奮性シナプス後電位であった. 記録側と対側の背側および腹側の皮膚・皮筋神経を閾値の5-10倍で刺激すると, ほとんど全ての外腹斜筋運動ニューロンに多シナプス性興奮性シナプス後電位が認められた. このことは, 体幹の片側の皮膚ないし皮筋を刺激すると両側の外腹斜筋が収縮することを意味する. 脊髄猫とアルファ・クロラローズ猫では, 両側の背側ないし腹側の皮膚・皮筋神経刺激で, 外腹斜筋運動ニューロンのシナプス応答にあまり差がなかったことから, この髄節性皮膚・皮筋反射経路には上部脊髄ないし脳からの影響は強くないと考えられる可能性のあることが示唆された.