1994 年 56 巻 5 号 p. 855-860
西表島産リュウキュウイノシシの頭骨35例(頭蓋骨と下顎骨25組, および下顎骨のみ10例)を用いて, 骨計測学的検討を行った. 年齢は下顎歯列の萌出と咬耗の状態を基準に査定し, 性別は下顎犬歯歯冠高の計測値および下顎犬歯歯根部のX線観察結果を利用して判定した. 計測部位は頭蓋骨で13部位, 下顎骨で14部位である. 最大頭蓋長と下顎骨全長から, 成長パターンを検討したところ, 幼若期に著しい成長が見られた. また, 幼獣で既に性差が出現していることが明らかとなった. 一方, 各部位の相対成長係数の比較から, 頭蓋骨と下顎骨の双方で, 長径が幅径よりも速く成長することが示された. また, 顔面頭蓋では長径の成長が著しく, 脳頭蓋では幅径の成長が速かった. 下顎骨の長径の成長においては, 下顎体の成長が大きな比重を占めていることが示された. いくつかの幅径の計測部位において, 頭蓋骨と下顎骨の成長速度は, そこに付着する筋肉の発達に関連して決定されることが示唆された. 以上の結果を, 他のリュウキュウイノシシ集団およびニホンイノシシの検討結果と比較することによって, リュウキュウイノシシの起源, およびリュウキュウイノシシの系統関係の把握に, 有効な情報が得られることが期待される.