抄録
成熟時の卵巣除去ならびにエストロジェン(E)およびプロジェステロン(P)投与がマウスの腹鼠径部第1乳腺と血管の発達に及ぼす影響を明らかにする目的で, 形態計測, 光顕および電顕を用いて検索した. 乳腺の fat pad に広がる実質の発達程度は E+P 投与群で最大で, 電顕所見では, 導管や bud の上皮細胞は多数のミトコンドリアやリボゾーム, よく発達したゴルジ装置や粗面小胞体を持っていた. 一方, 間質の脂肪細胞は鼠径リンパ節より後部の主要血管の周囲に多胞型が, それ以外の部位に単胞型がみられるが, E および E+P 投与群では単胞型がほとんど全域を占めていた. 従って, 乳腺脂肪組織は実質の発達のべースになることが示唆された. また, 導管や bud を取り囲む毛細血管は E+P投与群で最も密に分布し, 電顕所見ではその内皮細胞は長い辺縁ヒダおよび微絨毛様突起を持っていたが, 飲小胞の密度は除去群間で差がなかった. なお, 乳腺に分布する深腸骨回旋ならびに浅後腹壁静脈の径は E+P 投与群で最大であった. 以上の観察から, 成熟時に卵巣除去したマウスに E+P を投与すると, 乳腺の毛細血管は分布密度の増大と内皮細胞の飲小胞の密度が変わらないという妊娠初期に類似した形態をとっていることが示唆された.