1996 年 58 巻 1 号 p. 29-34
ラットの腹鼠径部第1乳腺に分布する深腸骨回旋および浅後腹壁動脈の内皮細胞の生殖周期に伴う微細構造の変化を乳腺の毛細血管と比較しながら電顕ならびに画像解析装置を用いて検索した. 両動脈の内皮下層は処女および離乳期で広く, 妊娠および泌乳期で狭かった. 内皮細胞には内弾性膜の有窓部を通り中膜に達する突起がしばしばみられた. 両動脈および毛細血管の飲小胞の密度は, 妊娠期に有意に増加し, 泌乳期で最大となり, 離乳期に減少した. とくに毛細血管の変化は最も著しく, 妊娠期では処女期の2倍, 泌乳期では4倍に増加した. ミトコンドリアの密度は, 泌乳期で最大になる傾向がみられ, 毛細血管では処女期よりも他の時期が有意に高かった. 泌乳期の辺縁ヒダおよび微絨毛様突起は処女期よりも有意に長かった. 以上の観察から, 両動脈および毛細血管の内皮細胞の微細構造は, 生殖周期に伴う乳腺の機能状態と密接に関連して変化することが示唆された.