抄録
琵琶湖の南湖東岸に位置する赤野井湾は、沿湖における水環境問題が顕現する場のひとつとして注目される。その流域の河川は主に20世紀後半の圃場整備を契機に構造改変も受け、昔日の姿は少なからず失われた。ここでは、地域に今に伝えられる明治前期の絵図史料などをもとに、近世にも遡るであろう水系の復原を試みる。広く平らな耕地が覆うこの流域では、野洲川河水や湧水を水源に水系が用水路として機能するよう配され、特に、これら水源や河道は受益地ごとに棲み分けられていることがうかがわれた。現況に至り、湖岸側では使途を農業排水路とするための河道改変が広く及んでいるのに対し、内陸側では都市化が進むものの在来河道の遺存も少なからず確認できる。後者に今も生きて流れる河水は、当該流域の水環境再生のための貴重な存在として水系全体の中においても有効に機能するよう適切に位置付けられるべきである。