抄録
棚田集落における都市農村交流のための手法はいまのところ開発途上であり、既存の保全施策が完全な成功を収めているとはいえない。さらに近年では、中山間地域において集落そのものの維持が困難になってきているという深刻な局面を迎えており、今後は、棚田保全事業拡充のための手法を確立するだけではなく、棚田の新たな維持管理主体を形成し、地元住民を主体とした棚田保全システムそのものを再編する必要がある。
本研究では、まず、棚田管理に関する現況と農家の保全意識を明らかにするために島根県吉賀町大井谷地区を対象に実態調査を行った。その結果、2015年には全棚田の5割以上が75歳以上の管理者によって耕作されることになるなど、将来的な棚田維持が困難である状況が明らかになった。さらに、農地の「所有と利用」というフレームを用いて棚田保全体制の関係者(プレーヤー)の相関関係をモデル化し、地権者だけではない多角的な主体との協働運営による新たな棚田保全システムの確立に向けての課題をまとめた。