水資源・環境研究
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20 巻
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  • 地域自立促進法に向けて
    末石 冨太郎
    2007 年 20 巻 p. 1-14
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    環境問題の解決には、できるだけ身近な課題を対象として、市民レベルも含めた問題把握への習熟を図ることが必要である。この論説では、水環境を地域分権的に扱うことを主目的に、環境破壊を機能的にではなくむしろ感性的に捉え、大学や学会を含めた関連組織が連携する方策を模索する。ダム型の環境破壊を記憶にとどめ、自然の動態に重点をおきすぎた環境科学にnegativismの発想を加える必要を論じたのち、筆者が関わった水行革の提言を例示して問題点を摘出する。要諦は、市民立法をも含めた地域分権にあり、その先導を大学が果たすべき根拠を示し、具体的な提案を行う。
  • ローカル・ガバナンス形成の可能性と課題
    野田 浩資
    2007 年 20 巻 p. 15-24
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    水環境の保全は、伝統的には地域共同体によって担われてきたが、近代化・現代化にともない、近年、その新しい担い手として「環境NPO」の役割が期待を集めている。しかし、地域社会の実際の現場では、「環境NPO」が既存の諸主体との間でどのような役割を果たすことができるか、さまざまなかたちでの試行錯誤が進んでいる段階である。本稿では、筆者らが滋賀県守山市において実施してきたNPO法人「びわこ豊穣の郷」の調査に基づいて、「環境NPO」による水環境保全のしくみづくりを検討する。
    「ガバナンス」とは、上からの統治と下からの自治を統合する概念であり、その特徴は、共有された目的に向けて、市民・企業・専門家・自治体・政府など、多元的で多様な主体(ステークホルダー)が、互いに認め合い、かつ、互いの活動を促進しあっている状態といえる。地域における「多主体連携」が、地域レベルでの環境保全とガバナンスの形成の可能性を開くであろう。今後の地域レベルので水環境保全をめぐって、伝統的地域住民組織、地方自治体に加えて、環境NPOが加わることによって、ローカルな環境ガバナンスの形成が可能になるという1つのシナリオを想定し、事例の紹介と検討をおこなっていく。
  • 島根県吉賀町大井谷地区の事例
    保田 祐子
    2007 年 20 巻 p. 25-36
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    棚田集落における都市農村交流のための手法はいまのところ開発途上であり、既存の保全施策が完全な成功を収めているとはいえない。さらに近年では、中山間地域において集落そのものの維持が困難になってきているという深刻な局面を迎えており、今後は、棚田保全事業拡充のための手法を確立するだけではなく、棚田の新たな維持管理主体を形成し、地元住民を主体とした棚田保全システムそのものを再編する必要がある。
    本研究では、まず、棚田管理に関する現況と農家の保全意識を明らかにするために島根県吉賀町大井谷地区を対象に実態調査を行った。その結果、2015年には全棚田の5割以上が75歳以上の管理者によって耕作されることになるなど、将来的な棚田維持が困難である状況が明らかになった。さらに、農地の「所有と利用」というフレームを用いて棚田保全体制の関係者(プレーヤー)の相関関係をモデル化し、地権者だけではない多角的な主体との協働運営による新たな棚田保全システムの確立に向けての課題をまとめた。
  • 高島市うおじまプロジェクトを事例として
    新玉 拓也
    2007 年 20 巻 p. 37-44
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    2003年に、「自然再生推進法」が制定され、自然保護に「地域の多様な主体の参加」や「国土交通省・環境省・農林水産省の連携」という多主体の連携の考え方が日本の法体系の中に取り入れられた。だが、これまでの自然保護活動は、日本の縦割り行政を反映し、同じ地域内でも限られた団体のみの小規模な活動で終わることが多かった。そこで必要となってくるのが、コーディネーターの存在である。
    本研究が事例として取り上げる「高島市うおじまプロジェクト」では、積極的なコーディネイト活動が展開された結果、これまで成しえなかった国土交通省と土地改良区の連携が構築され、そこから連携の輪が広がっていった。そこで、自然保護活動の活性化において基軸となる要因を明らかにするため、現在もネットワークが拡大し続けている「高島市うおじまプロジェクト」を事例とし、コーディネーターの役割に関する考察を試みた。
  • 仲上 健一, Khin Myat New
    2007 年 20 巻 p. 45-54
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    大都市圏における持続可能な水資源環境管理を確立することは、都市活動の安全性の確保のみならず、循環型社会形成においても不可欠の政策課題である。持続可能な都市環境管理の推進は、環境基本法、循環型社会形成推進基本法の制定以来、政策課題として明確に位置づけられつつある。流域管理や水資源管理の新たな方向性として統合的水管理が定着しつつある中で、大都市圏におけるウォーター・セキュリティの課題が重要視されつつある。本論文では、ウォーター・セキュリティの概念の構築を目指して、水資源環境のサステイナビリティとウォーター・セキュリティとの関係を論じたものである。ウォーター・セキュリティの構成要素を持続可能性という視点で整理し、気候変動と統合的水管理の議論展開のためのフレームワークを提示した。
  • 東京都江戸川区における親水公園を事例として
    坪井 塑太郎
    2007 年 20 巻 p. 55-62
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    本研究は、従来、主として「快適環境性」の把握に重点が置かれていた親水公園を、「防災機能性」を並存する空間として位置付け、それら双方の機能について居住者評価をもとに検討を行ったものである。その結果、環境面における満足度向上のためには、高い自然度の確保のみではなく、高齢者や年少者に配慮した施設整備の併用が重要であることが明らかになった。一方、親水公園の防災面では、災害時の困窮施設として挙げられることの多いトイレ・水道施設の存在や、一定規模の緑地帯として線状形態を持つことから防災機能性に対する潜在的な認知と期待が表明された。しかしながら、低地・軟弱地盤上に位置し、密集市街地が多く存在する本研究対象地域においても、災害に対しては加齢に伴うリスク意識の低減がみられることから、今後、親水公園を既存のオープンスペース・避難場所を代替補完可能な空間としていくためには、避難経路利用等に関する情報の整理と公開、認知普及を進めていくことが課題である。
  • 田渕 直樹
    2007 年 20 巻 p. 63-72
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    全長117kmの遠州海岸全体で海岸浸食が発生している。一般市民がその海岸浸食を知ったのは2003年であり、佐久間ダムが完成した約50年後のことである。その原因はダム堆砂による流砂源の涸渇、そして防波堤新設による漂砂の遮断である。これに対して行政は1960年代から離岸堤や消破堤を建設してきたが浸食は止まっていないし、専門家は1970年代からこの問題について調査・研究してきた。農業や漁業、出役などで日々川や海に接していた旧住民は60年代に海岸浸食を知っていたが行動を起こすことはなく、川や海に接する機会がなかった新住民のうち能動的な市民団体やサーファー達は、2003年を起点に堆砂垣や養浜活動に取り組んでいる。両者の長所を兼ね備える方法はないか。
  • 古井戸 宏通
    2007 年 20 巻 p. 73-86
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    「水の時代」が森林の重要性に直結していることが世界的に理解されつつある中、「森林と水」の研究を発展させるために、フランス林野行政史において法令・行政機関等の林野に相当する呼称が「水と森林」(以下EF)であった史実について、フランス語二次文献等に依拠し「水」という名辞を通時的に分析した。中世期に、非耕地ないし林野一般を指す便利な表現としてEFが出現して以来、EFの語は絶対王政期以降も法令や諸官制に受け継がれてきた。革命初期に「水」が消えたものの19世紀の林野行政における治山事業、内水面管理の所管から復活したEFの呼称は第二次大戦後、山林学校の名称を除いて消滅した。フランス語のEFの解釈はいわば林野利用権説と治山治水説の二説に大別されるが、EFの意味は時代によって変化している。飲料水源の土壌保全が社会問題となった1980年代以降、山林学校においても名目化していたEFに新たな意味が加わった。
  • 選好の多様性・因果関係の不確実性を基準としたモデルによる分析
    高橋 卓也
    2007 年 20 巻 p. 87-100
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    水源林管理における意思決定の類型を発見するため国際比較をおこなった。東京、バンクーバー(カナダ)、シアトル(米国)の3つの事例について分析し、Thompson and Tuden(1959)が提唱したマトリックス・モデルの4つのセル(意思決定戦略の類型を指す)のうち3つのセルに該当する意思決定のあり方が確認された。すなわち、東京=官僚主導=官僚構造による計算戦略、バンクーバー=政治家主導=代表構造による妥協戦略、シアトル=科学者主導=同輩合議構造による判断戦略という類型化をおこなった。規範的には、それぞれの類型は、選好の多様性・因果関係の不確実性の大小に対応すべきであるが、3事例においては若干の逸脱が見られた。水源林管理、水資源・環境問題において、意思決定戦略を選択するさいの適切さの確認、代替的な意思決定戦略への気づきを促すうえで、本モデルによる類型化は有益なものだと考えられる。
  • 安本 典夫
    2007 年 20 巻 p. 101-114
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    文化的景観の保全は、現状改変の規制と生業・文化等の振興を組み合わせ総合的に進めなければならない。現行法制は、規制については文化財保護法と景観法の二本だてが適切に構成されているとは言いがたいが、是正されるべきである。同時に、「生業」振興等との総合化は、基本的には、自主条例を軸として、法律上の制度(景観農業振興地域整備計画等)もそこに組み込んで制度を構築することが必要である。
  • 香川県木田郡三木町下高岡を事例に
    杉浦 未希子
    2007 年 20 巻 p. 115-124
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    香川県木田郡旧下高岡村では、「地主水」と呼ばれる水利慣行が存在した。地主水とは、本来土地所有権と堅固に結びついているはずの水利権が、例外的に土地から切り離されて(本稿ではこれを属人性とする)売買された慣行水利権である。現在では売買自体は行われていないが、その売買を側面から支えた配水システム、番組(配水)の合意形成プロセス、および水利費課金方法などは現在まで残っている。本稿は、先行研究から得られる地主水の特徴の整理と、現地調査によって得られた現在の水利状況から、地主水を成り立たせていた要因を考察し考えられる4点を指摘した上で、現代の稀少性にかかわる議論(私的財・経済財)への示唆を読み取る。
  • 水配分における政府の役割
    遠藤 崇浩
    2007 年 20 巻 p. 125-136
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    現在、水資源の稀少性が広く認識されるにつれ、世界各地でその有効利用が論じられている。これに関して、1991年、カリフォルニア州で興味深い取り組みが行われた。「カリフォルニア渇水銀行(通称、水銀行)」である。当時、同州は渇水に見舞われており、稀少性の高まった水の配分問題が緊急の課題となっていた。水銀行はその解決策として導入されたが、その特徴は利水者問の自発的な水取引、いわば市場メカニズムの要素を取り入れた水利転用にあった。
    一般に市場機構は資源配分の効率性を高めるとされているが、そもそも市場機構が機能するには政府が一定の役割一特に財産権の設定、取引のルールの執行といった法的枠組みの整備-を果たすことが必要不可欠である。こうした点に着眼し、この論文では、水銀行の全体像(設立経緯、しくみ、その有効性)を検討し、さらに水銀行を支える法的枠組み作りにおいて州政府が果たした具体的役割を明らかにする。
  • 武藤 仁
    2007 年 20 巻 p. 137-146
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    ミネラルウォーターや浄水器の普及で市民の「水道離れ」が議論されるようになって久しい。本稿では、名古屋市上下水道局のアンケート調査などを材料に「蛇口の水と市民の関わりの実態」を検討し、「水道離れ」といわれる中での水道事業体や水使用機器メーカー等の取り組みを取りあげ、今後の水道事業の課題を考察した。
  • 名古屋市のダム事業参加継続と他都市における見直しを対比して
    富樫 幸一
    2007 年 20 巻 p. 147-158
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    日本は現在,人口減少社会に入るとともに、大都市への再集中などの新たな現象も生じつつある。これまで人ロや水道需要の増加を予測してダムなどの水資源開発事業に参加してきた自治体でも、利水事業からの撤退の動きが出てきているが、徳山ダムなどに参加してきた名古屋市では予測の見直しは数次にわたって行われてきたものの、事業への参加は規模を縮小して続けている。その要因について大阪府などの他の自治体と対比して、人口減少時代の水道事業において需要予測、節水、費用対効果などの視点から論じる。
  • 大阪府茨木市の場合
    矢嶋 巌
    2007 年 20 巻 p. 159-168
    発行日: 2008/03/31
    公開日: 2009/04/22
    ジャーナル フリー
    京阪神大都市圏の衛星都市である大阪府茨木市の、第二次世界大戦後における水道事業の展開と要因を明らかにした。同市は第二次世界大戦後の復興期に、財政立て直しのため都市的機能を誘致した。高度経済成長期には人口や事業所が急激に増加し、経済低成長期にも開発が続いた。茨木市の水道事業は生じた水需要の急激な増大に対応を迫られ、当初は自己水源の増強で対応した。大阪府営水道の給水能力が強化されると、同水道からの受水を増加させて対応した。1990年代に入って水需要が停滞傾向になったものの、人口増加が見込まれる大規模開発が丘陵部・山間部で続き、受水の増加で対応した。一方で地下水の自己水源を一定程度を保有し続け、また、水道設備の更新にも努めてきた。近年の水需要の減退傾向を受けては計画最大給水量を減じ、自己水源を整備し、コストの低減を図ろうとしている。
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