2020 年 66 巻 3 号 p. 117-127
中部地方におけるスギの年輪構造に及ぼす気候要素の影響を明らかにした。岐阜大学高山試験地常緑針葉樹林内の33個体のスギ造林木からコア試料を採取した。軟X線デンシトメトリーによって年輪幅,年輪内平均密度,早材幅,晩材幅,早材密度,晩材密度を測定し,年輪幅と年輪内平均密度の積から年輪重量成長量を算出した。それぞれの年輪要素について生育地を代表する時系列であるクロノロジーを構築した。各クロノロジー間およびクロノロジーと気候要素の間について,単相関分析を行った。早材幅は年輪幅および年輪重量成長量と有意な正の相関を示した。さらに,早材幅は当年3~4月の気温と有意な正の相関を示した。これらの結果から,早材幅は年輪幅と年輪重量成長量の変動を規定する重要な要素であることが示された。形成層活動開始前の春の前半の気温上昇が早材幅を増加させ,その結果として年輪幅と年輪重量成長量が増加することが示唆される。