木材学会誌
Online ISSN : 1880-7577
Print ISSN : 0021-4795
ISSN-L : 0021-4795
66 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
カテゴリーI
  • 平野 優, 斎藤 琢, 武津 英太郎, 小林 元, 村岡 裕由, 沈 昱東, 安江 恒
    2020 年 66 巻 3 号 p. 117-127
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    中部地方におけるスギの年輪構造に及ぼす気候要素の影響を明らかにした。岐阜大学高山試験地常緑針葉樹林内の33個体のスギ造林木からコア試料を採取した。軟X線デンシトメトリーによって年輪幅,年輪内平均密度,早材幅,晩材幅,早材密度,晩材密度を測定し,年輪幅と年輪内平均密度の積から年輪重量成長量を算出した。それぞれの年輪要素について生育地を代表する時系列であるクロノロジーを構築した。各クロノロジー間およびクロノロジーと気候要素の間について,単相関分析を行った。早材幅は年輪幅および年輪重量成長量と有意な正の相関を示した。さらに,早材幅は当年3~4月の気温と有意な正の相関を示した。これらの結果から,早材幅は年輪幅と年輪重量成長量の変動を規定する重要な要素であることが示された。形成層活動開始前の春の前半の気温上昇が早材幅を増加させ,その結果として年輪幅と年輪重量成長量が増加することが示唆される。

  • 降伏耐力と最大耐力の推定
    須藤 竜大朗, 河原 大, 落合 陽, 青木 謙治, 稲山 正弘
    2020 年 66 巻 3 号 p. 128-139
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    釘接合部の耐力の推定式にはヨーロッパ型降伏理論(EYT)によるものと,釘の頭部径をパラメータにしたものがある。また降伏後の荷重の上昇について理論的に考察した例は少ない。本報ではMDFの釘接合部を対象に,降伏耐力と最大耐力の推定を試みた。釘頭がMDFに回転しながらめり込むことで発生するモーメントを考慮したEYT式を降伏耐力の推定に用いた。またロープ効果を考慮したビス接合部の最大耐力の推定式を本研究に適用した。その結果釘頭の回転めり込みモーメントを考慮しEYT式を改良することで推定精度の向上がみられた。またビス接合部の設計式でも釘接合部のロープ効果を推定できる可能性が示された。一方釘の塑性ヒンジより先の支圧耐力が降伏耐力の推定値と実験値の誤差へ影響している可能性が示唆された。また最大耐力時の釘引抜耐力を実際より低く,釘頭貫通力を実際より高く推定している可能性も見受けられた。

カテゴリーII
  • 村野 朋哉, 藤本 登留, 中尾 哲也, 阪上 宏樹, 渡辺 憲
    2020 年 66 巻 3 号 p. 140-147
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    高温乾燥過程における正角の表面ひずみの挙動を明らかにすることを目的とし,画像分析手法の1つであるMark tracking法を用いて高温乾燥過程における2次元的な表面ひずみの経時変化を調べた。断面寸法が132mm×132mmのスギ(Cryptomeria japonica)心持ち正角,および心去り正角を3種類の乾燥スケジュールで乾燥させたところ,全ての条件で材面中央部に比べて材面端部が大きく縮むという特徴的な挙動が観察された。この傾向は特に心持ち正角の高温乾燥条件で顕著であった。乾燥後,ドライングセット量と表面ひずみとの関係を調べたところ,両者の間に正の相関関係が認められた。表面ひずみからドライングセット量をある程度推定できると考えられた。画像分析手法を用いて表面ひずみ分布を測定することで,高温乾燥過程における表面ひずみの経時変化を詳細に把握することが可能であった。

  • 土屋 善裕, 中山 昇, 樋口 泉
    2020 年 66 巻 3 号 p. 148-160
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    引張強度の非常に大きいタケと有効活用されているとは言えない間伐材を組み合わせて接着積層板をつくり実用の可能性を探ってきた。ヒノキ板を2枚突き合わせタケを当て板とし,片面当て板接着継手と両面当て板接着継手を製作した。継手の引張強さを調べる目的で当て板の厚さを2種類にして合計4種類の継手を製作した。継手に引張荷重を作用させ,それぞれの破断荷重値の分布を比較した。またいずれの継手も有限要素法で内部応力の大きさを調べた。その結果,両面当て板接着継手の破断荷重値は片面当て板接着継手のそれと比較して大きく,当て板の厚さの影響は小さいことがわかった。これに対し片面当て板接着継手では破断荷重の大きさに当て板の厚さのおよぼす影響が大きいことがわかった。この原因は非対称の継手では引張作用下で,当て板周辺部が曲げられるが,当て板の厚さが異なることで曲げの大きさの違いを起こし,接着剤層に生じる応力の大きさに差異をもたらすことで破壊の起点となるき裂の発生に影響をおよぼしていることがわかった。

  • 渕上 佑樹, 中井 毅尚
    2020 年 66 巻 3 号 p. 161-170
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    三重県内の10社の製材所の製材製品を対象とし,ライフサイクルアセスメントの手法を用いてGHG排出量を算出した。この結果,これらの製材所の平均値は単純平均で153kg-CO2e/m3,年間製材製品量に応じた加重平均値は258kg-CO2e/m3であることがわかった。また,各製材所の製材製品のGHG排出量は,最大が473kg-CO2e/m3,最小が54kg-CO2e/m3であり,製材所ごとの差異が大きいことが明らかとなった。要因として,床板や壁板といった加工板を製造するための仕上げ加工工程の有無が大きく影響を与えていることがわかった。また,人工乾燥工程の有無,人工乾燥の熱源の種類もGHG排出量に大きく影響を与えていたが,熱源が化石燃料であっても年間の製品製造のサイクルのうち人工乾燥工程を気温の高い夏季にすることによってGHG排出量を抑制できることが示唆された。

カテゴリーIII
  • 喜多 祐介, 田鶴 寿弥子, 竹下 弘展, 杉山 淳司
    2020 年 66 巻 3 号 p. 171-182
    発行日: 2020/07/25
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    近赤外分光法は,樹種間におけるわずかな化学成分の違いを検出することにより,顕微鏡観察では不可能であった樹種の識別を可能とする。本研究では,近赤外分光と多変量解析ならびに特徴量選択法を用いることにより,日本の建築用材として重要かつ解剖学的に類似する樹種であるヒノキ・アスナロ属,ならびにツガとベイツガの識別について検討した。これに加えて,ヒノキ・アスナロ属の現生材で構築されたモデルを用いて伝統建築に使われたヒノキ・アスナロ属古材の識別も実施した。現生材の場合は,9割近い精度で識別が可能であることが示され,変数選択により識別に重要な波数域を定量的に示すことに成功した。古材においては,経年劣化による化学成分の変化により現生材に比べて識別率の低下がみられた。しかしながら,モデルが選択した重要変数領域が劣化に対して頑強であったために,既報に比べて高い識別率を維持したと考えられる。

feedback
Top