2016 年 13 巻 p. 82-105
これまでの日本の障害者運動研究は,1970 年代以降の障害者解放運動を主
な対象としてきた.それは当事者が健常者の抑圧から単独で自立して勝ち取る
という物語とは異なる,健常者と障害者の関係や連帯という論点を置き去りに
してきた.そこで,本稿は,「わっぱの会」を取り上げた.障害者と健常者双
方が利害関係者として当事者性を主張し,一緒に活動を行った(=「連帯」).
そこで,「わっぱの会」の1970 年代の活動に着目し,なぜ障害者と健常者と
の「連帯」的な活動が行われたのかを明らかにした.
「わっぱの会」は,ワークキャンプという学生ボランティア活動に始まった.
それは,異なる他者同士が,出会いを媒介にその関係性を変容させていくとと
もに社会問題を発見していくという特徴を持つ.「わっぱの会」のメンバーは,
障害者入所施設でのワークキャンプで「モラル・ショック」を受けた.その後
共同生活・労働の場を立ち上げた「わっぱの会」は,ワークキャンプの特質を
引き継ぎ,共同生活・労働の中から社会問題を発見し,実践での困難から障害
者と健常者の関係形成を自省的に捉え変革していく試みを行なった.共同生活・
共同労働という,ボランティアの域を超えた日常的な活動は,障害者と健常者
双方に「生活者・労働者としての当事者性」を与えた.これにより,「連帯」
的な活動が可能となった.