2017 年 14 巻 p. 121-143
本稿では,日本の義務教育制度の枠外で不登校児童生徒を受け入れる「フリースクール」の活動とその法制化の取り組みを題材に,
フリースクールではいかなる社会的排除/包摂の機制が働いているか,また,そうした法制化の意義と課題とは何かについて考察した.
結果,前者の問いについては,フリースクールとは子ども中心の名のもと,
不登校児童生徒を学びと承認という双方の観点から学校外で柔軟に包摂しようとする実践であること,
他方で現状ではフリースクールには卒業資格が認められず,また低所得層を排除する機制が存在することが明らかになった.
後者の問いについては,上記フリースクールの限界を解決すべく,不登校問題の支援者により推進されてきた「多様な教育機会確保法案」(2015 年)を取り上げ,
その枠内では,個別学習計画という届出制により年齢や国籍によらず義務教育上の卒業資格と一定の公費助成が認可される点で,
就学をめぐるシティズンシップの諸権利(学習権)の適応範囲と内容が拡張されうること,ただし社会階層間で利用格差が拡大する危険性を法案の賛成/反対派は看過しており,
学校による包摂の複数性を論じる際には格差是正の視点が重要になることが明らかになった.
本稿からの示唆としては,従来の移行研究や社会政策学が見落としてきた多元的な社会的包摂の可能性,すなわち休息権が保障され能力主義的な価値が相対化されうる「居場所」の重要性が明らかになった.