抄録
本稿では,戦後日本の児童福祉法下における1940 年代後半から2000 年代までの社会的養護,中でも施設養護の議論における「愛着障害」概念興隆/盛衰の軌跡を,
「子どもの発達」をめぐる歴史社会学の視座から跡付ける.同時期は,社会的養護が戦後直後の戦災孤児の収容の場であった戦後直後期から,
児童福祉における家族政策の本格的開始時期である高度経済成長期,「子捨て,子殺し」などが社会問題化し社会的養護のあり方の変革が施設養護の場から
提起された1970 年代~80 年代をはさむかたちで,1990 年代以降の児童虐待時代に連なる時期に該当する.
「愛着障害」概念は,太古の昔からある脱歴史的な概念ではなく,近代的子ども観や近代家族規範の形成や流布などとの交錯関係の中で歴史的に特定の時
期に形成された政治的な概念である.また同概念の盛衰過程には,その時代の社会的養護の場における施設観や家族観が色濃く刻印されている.本稿では,
戦後日本の「愛着障害」をめぐる議論には,戦後直後と1990 年代以降の現在という,議論が特に活発化した2 つの時期があることを指摘するとともに,
それぞれの時代の社会的養護の場に編み込まれた「子どもの発達」問題の諸相を跡付ける.