福祉社会学研究
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┃特集論文Ⅰ┃福祉社会学の課題と展望――学会設立20年に寄せて
過疎内包型地域圏としての過疎地域把握
過疎高齢者と近隣地方都市の他出子との関係をもとに
高野 和良
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2024 年 21 巻 p. 51-71

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抄録

現在の過疎農村地域では,その内部と外部の間で取り結ばれる社会関係が増加し,多様化し,過疎農村地域の内部で生活が完結する傾向が弱まっている. 自家用車利用による社会移動が拡大し,生活の拠点を過疎農村地域に置きつつ,日常的に広域の移動を繰り返す住民が増えている.  こうした日常的な移動が,実は過疎農村地域で暮らす高齢者の生活を支えている.過疎高齢者を「世帯」としてみれば一人暮らし高齢世帯であっても,この高齢者に「家族」としての他出子がいる場合,食品の買い物や通院などで高齢者の生活を支えている事例は少なくない.  しかしながら,日常的な移動の拡大のもたらした影響と,世帯と家族との関係実態をふまえた,過疎地域の地域構造と生活構造の双方を捉えた現状分析は,必ずしも十分に行われてきたとは言い難い.そこで,本稿では過疎農村地域の地域構造を把握するためには,過疎農村地域と近隣の地方都市から形成される圏域として「過疎内包型地域圏」を設定する必要があることを指摘した.そのうえで,山口県萩市田万川地区で継続的に実施してきた社会調査結果をもとに,世帯としての高齢者世帯と,その家族である他出子との関係を確認することで,現代の過疎農村地域の生活構造の一端を示し,これらを通じて過疎地域での生活継続の可能性を検討するための手がかりを示した.

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