抄録
本稿では、戦前における社会政策についてきわめて簡略的に確認したうえで,戦後, とりわけ1970年代以降の老いをめぐる政策と歴史のダイナ
ミズムを素描しつつ,それらを«制度分析の企て»の視点から分析することを目的とする.
結論として以下を記す戦前期の社会政策は「国民の必要」という«制度の計画»を超え,あるいはその計画を組み込む形で«制度の効果»が語られ国力増強と秩序維持」としての«制度の慣用»と«戦略的布置»が起こってきた. また,戦後における老いをめぐる政策では,もともとの«制度の目的»であった「必要」「保護」を超え,常に「悲惨」という〈効果〉が幾度も反復的に語られることを通じて,次第に「誰もが迎える老後」の«社会的不安»への「備え」としての制度がせり出し,の中で様々な目的への«慣用»がなされ,そのことによって国民・集団間の利害が形成されていくような«戦略的布置»が形成されてきた. 言うなれば,〈社会的なもの〉の不合理性,そのもとでの悲惨・理不尽さ,そのもとで現出する過少と過剰などへの痛烈な批判から,次第に〈経済的なもの〉へと編成されてきた
が,今度はそのもとでの不合理性・悲惨・理不尽さ・過剰と過剰が広く人口に膾炙することを通じて今日の«制度»が作り出されていった.しかし,まさにそれこそが否応なく私たちを拘束してしまっている事態となっているのだ.そして,そのような複雑でもある«制度的被拘束性»が今日の私たちの「変革」を困難にさせ「基本」への立ち返りを躊躇させてしまっていることをまとめる.