福祉社会学研究
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自由論文
R.ピンカーの市民権論
T. H. マーシャルの継承と発展
香川 重遠
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2010 年 7 巻 p. 99-117

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抄録

本稿では,マーシャルの市民権論を継承し時代の転換に応じて発展

させることに成功したと考えられるピンカーの市民権論に注目した。ピン

カーの市民権論は,主として,初期の著書『社会理論と社会政策』 (Social

Theory and Social Policy) と『福祉の理念』 (The Idea of Welfare), さらに

昨今の「贈与関係から準市場へJ (From Gift Relationships to Quasi-markets)

において展開された一連の議論に集約される。本稿ではそれらの議論を中

心に吟味したピンカーは,普遍主義と制度的モデルが市民権の地位を保

証し,選別主義と残余的モデルがそれを脆弱にするという旧来の議論を否

定し,むしろ現代的な一元主義と多元主義という概念に注目する必要があ

ると提起した。ピンカーは「依存」を分散し「スティグマ」を軽減する

という理由から多元主義を支持し,その理論的な具体化をルグランの準市

場論に見出した.ピンカーは市民権の中道的特質を強調し,市民権とマー

シャルの提起したもうひとつの重要な概念である「民主―福祉―資本主義」

とのつながりに論理的な筋道をあたえた.ここにマーシャルの市民権論の

発展があったと思われる。ピンカーの市民権論は「受け手」の観点から「与

え手」のあり方を考えるという点で特異であると同時に,福祉国家研究に

新たな視座をもたらすものであろう.

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